東京高等裁判所 昭和34年(う)1292号 判決
被告人 市原勝利
〔抄 録〕
論旨は、原判決は判示第二において、「同所はS形カーブの左カーブに続く右にカーブの地点であるから、自動車を運転する者は速度を時速五十粁以下に減じた上細心の注意を払いながら進行すべきものであるのに、被告人はこれを怠り、依然時速七十粁の速度で直進を続けた著しい不注意により」と判示しているから、右は自動車運転者の業務上の注意義務を判示したものと認めるべきである。然るに原判決が被告人の判示第二の所為を重過失致死傷に問擬したのは判決の理由にくいちがいがある場合に該当すると主張する。しかし原判決の右判示は被告人を自動車運転の業務に従事する者と認定したものでもなく、従つてその業務上の注意義務を判示したものではない、原判決の判示は自動車を運転する者の一般的な注意義務を説明し、被告人はこの注意義務を著しく怠つて自動車を運転した結果原判示のような人の死傷の結果を惹き起した事実を認定して被告人を重過失致死傷罪に問擬したのであるから、原判決には何ら理由にくいちがいはない。次に論旨は業務上の過失を普通の過失より重く罰する趣旨から考えると自動車を運転して道路を進行すること自体が業務と認めるべきであつて、被告人の判示第二の所為は業務上の過失致死傷と認めるべきであるのに、これを重過失致死傷と認定した原判決は事実の認定を誤り且つ法令の適用を誤つたものであると主張する。しかし刑法第二百十一条にいわゆる業務とは各人が社会生活上の地位に基いて反覆継続して行う事務をいうものと解すべきであつて、自動車を運転して道路を進行したからといつてそれが直ちに業務となるものではない。記録を精査するも被告人は、平生、徒歩又は自転車で顧客に商品を配達しているもので、その社会生活上の地位に基いて反覆継続して行う事務として本件自動車を運転していた事実は認められない。そして原判示のような場所で自動車の運転をする者に原判示のような注意義務があることは当然であり、被告人が著しい不注意により原判示のような人の死傷の結果を惹き起したものであることは原判決挙示の証拠によつてこれを認めることができるから、被告人の本件所為を重過失致死傷罪に問擬した原判決には事実の誤認はなく、従つてまた法令の適用の誤もない。それ故論旨は理由がない。
(岩田 渡辺辰 司波)